3.枚方市域防災拠点としてのまちづくり

2024年3月

 

本年元旦に発生した能登半島地震は、今までの地震に例を見ない強度の大地震で、幹線道路は寸断され、孤立集落への物資搬送や救助作業は困難を極めています。また、同時発生した津波の被害も深刻であります。

 

今後30年以内に70~80%の確率で発生するとされる南海トラフ巨大地震(マグニチュード8~9、震度7)に対して、枚方と交野地区の防災対策はかなっているのか。私どもが現在すすめている茄子作地区土地区画整理事業及びJR学研都市線交野新駅まちづくりにからめ、枚方・交野の防災拠点構想について具体的に提言する。

 

1. 淀川水域氾濫原にあたる枚方市中心部

 

枚方市の西境界を流れる淀川は、奈良時代からの文明と物流の大動脈であり、枚方はその中継点として1000年余にわたって栄えてきました。枚方市の中心部にある岡町は天の川によって運ばれてきた生駒山系の土砂が、淀川本流によって押し流されてできた丘(岡)であり、もともと淀川の氾濫原でありました。標高は5~7mしかなく、枚方市のハザードマップでは、大規模災害時水深2~5mの浸水域となっています。

 

ところで、南海トラフ巨大地震では津波が発生します。枚方市は淀川の河口から約30㎞離れていますが、東日本大震災時の津波は、北上川では河口から約50㎞の上流にまで及んでおり、枚方市中心部も被災すると覚悟しなければなりません。枚方市役所は淀川の氾濫原の真っ只中にあり、被災時には司令塔として十分機能しなくなるおそれがあります。また、枚方市の防災拠点の一つである牧野車塚古墳地域も幹線道路の1号線(京阪国道)が寸断、渋滞し身動きがとれなくなるおそれがあります。

 

このような大規模災害時、枚方市の物資輸送の根幹となるのは、淀川でも1号線(京阪国道)でもなく、枚方市唯一の高速道である第二京阪道路であります。そこで、枚方市第二京阪沿道まちづくりとして、唯一の(仮称)茄子作地区土地区画整理事業の概要について説明し、このまちづくりと連動した枚方市防災拠点構想について以下に提言する。

 

2.第二京阪交野南IC隣地に調整池を有する茄子作地区まちづくり計画

 

枚方市茄子作土地区画整理準備組合が進めているまちづくり計画の概要は、次の通りです。

 

1) まちづくりの基本方針

 

枚方市の都市計画マスタープランにおいて、当茄子作地区は第二京阪沿道の産業集積を目指す地区と位置付けている。

 

当地区は、過去1500年間、大きな災害の記録がない防災性に優れた地区であり、第二京阪道路に隣接するアクセス性に優れた地区である。住宅系市街地に接し雇用や購買力の創出が見込めるため、産業用地、商業用地を中核に、住居、農地が共存する安心、安全なまちづくりを目指している。

 

本まちづくりの事業協力者である大和ハウス工業グループは、土地区画整理事業を通じてSDGsの目標達成に寄与することを大義としており、当地区が枚方南部を代表する企業団地であると同時に、大規模災害時、防災拠点となりうるコンパクトシティを目指している。

 

当まちづくり地区は標高30m、強固な地盤の台地上にあり、防災性に優れている。ここは淀川にかわる物流の大動脈として、第二京阪道路によって日本列島軸に直通しており、災害時機動的な展開が可能な枚方市きってのまちづくり地区である。(図1)

 

図1 パラダイムシフト

 

2)事業名称    :(仮称)茄子作土地区画整理事業

 

3)事業主体    :枚方市茄子作土地区画整理準備組合

 

4)業務代行予定者 :株式会社フジタ、大和ハウス工業株式会社、ホクシン建設株式会社

 

5)施行予定面積  :約20ha

 

6)地権者数    :約120名

 

7)総事業費    :約76億円(内、補助金等公的資金の交付なし)

 

8)整理後の土地利用:産業施設、商業施設、戸建住宅、集合住宅、農地、公園、調整池 等

 

9)今後の予定スケジュール

  

        2024 (令和6)年秋頃 都市計画決定予定(市街化区域へ編入)

  2025 (令和7)年初旬 土地区画整理組合 設立予定(事業が正式に開始)

  2025 (令和7)年春頃~埋蔵文化財調査・造成工事 着手予定

  2029 (令和11)年頃~  土地活用開始・進出企業の建築工事 着手予定

  2030 (令和12)年頃~  組合解散予定

 

3.第二京阪道路沿道市有地の活用

 

能登半島地震発生の翌1月2日、被災地への救援物資搬送のため東京国際空港を離陸しようとした海上保安庁の航空機が、着陸したばかりの日本航空旅客機と衝突、両機とも炎上するという大事故が起きました。

 

不幸にして、ひとたび災害が発生すれば、その支援体制と防災拠点が問われます。淀川左岸の枚方市域が水没し1号線(京阪国道)が麻痺しても、枚方市は日本列島国土軸に直通する第二京阪道路があります。

 

枚方市の南西端、茄子作地区(標高30m)に第二京阪交野南ICがあり、そのICに接して(仮称)枚方市茄子作土地区画整理事業(約20ha)が進行中です。令和12年に事業が完成すると、令和1年に完成している茄子作南地区(約4ha)と合わせ、全約24haの『枚方南部企業団地』となります。(図2)

 

図2 枚方市第二京阪沿道・防災拠点構想(枚方南部企業団地)

 

4.枚方市茄子作防災拠点構想

  

以上を枚方市議会等を通じて、枚方市に要請していく。

 

 

5.JR学研都市線交野新駅まちづくり

 

本件については、2024年12月に、株式会社コスモ情報センターのホームページニュースとして発表します。

 

6.「工業地域」反対の住民運動

 

図2⑪、⑫の産業用地は「工業地域」に設定した。これに対して「工業地域」反対の署名運動が起こり4400名の反対署名が枚方市に提出された。私は令和6年1月18日の大阪府公聴会において、別紙の「公述」を行なった。

 

以 上

 

 


令和6年1月18日

公 述 書

—枚方市茄子作地区東部大阪都市計画案―

 

枚方市茄子作2丁目 岡市敏治

 

=要旨=

 

茄子作の美しい田園風景は、第二京阪道路開通によって乱開発の危機に。農業経営の収支も絶望的で、地権者は第二京阪道路沿道の立地を生かした産業集積のまちづくりへ。防災性とアクセス性に恵まれた当地区へは、優良企業の進出が見込まれ、雇用の創出、税収の増加等で地域経済活性化が可能。

能登半島地震を目の当たりにし、南海トラフ地震が現実味を帯びてきた。二国ICそばの当地区は巨大災害時に物流面で機動的な展開が可能な枚方市唯一のまちづくり地区。進出企業、地域社会、行政が一体となって枚方市の防災拠点モデルとなりうる公益性の高いまちづくりを目指す。

 

 

私は第二京阪沿道の枚方市茄子作地区に2反600坪の田畑を所有する農家であります。発掘遺跡から見る限り、古墳時代の1500年以上も前からこの地で稲作農業が連綿と続けられてきました。

約20haの南にひらけた美しい眺望の高原台地でありますが、稲作に必須の河川がありません。そのためご先祖たちは田の脇に池や井戸を掘り、水を汲み上げていたのです。

 

1.跳ね釣瓶で稲を育てたご先祖たち

 

昭和20年代、私が小学生だった頃は—この一帯を広野といいますが—広野のあちこちに跳ね釣瓶が林立していました。支柱に支えられた横木の一方に釣瓶をかけ、お父さんがその釣瓶を井戸に落として水を汲み入れます。そのとき、横木のもう一方の先端に巻きつけた紐をお母さんが引っぱると、テコの原理で、釣瓶が跳ね上がり、お父さんは釣瓶の水を田へ注ぎ入れます。ポンプなどない時代ですから、日照りの夏の炎天下、朝から晩まで、田に水が満ちるまでこの作業を繰り返します。とんでもない重労働です。私の妻は寝屋川市下木田の出身ですが、あの一帯の農家では「茄子作には娘を嫁にやるな」と言われたそうです。

 

私たちの世代はこのような苦役によって田を守り続けてきたご先祖の苦難を目の当たりに見ていますので、平成20年にこの地に大阪府及び枚方市の先導でまちづくり協議会ができたときは考え込んでしまいました。

 

土地区画整理法によるまちづくりとは、所有地の40%~50%を区画整理事業に提供し、その土地を売却することによって道路や公園をつくり、造成工事費を捻出するものだと知ったからです。ご先祖が血と汗を流して守ってきた田畑を自分の世代に自分が楽をするために、その半分をも失っていいものなのか、農家には大きな葛藤がありました。

 

2.第二京阪道路ができて乱開発の危機

 

それから10年が経ちました。平成22年には第二京阪道路が開通し、茄子作広野の南に隣接してICができました。それまで、茄子作から車で大阪や京都に出るには1号線を使い、朝夕のラッシュ時には1時間半から2時間かかり、枚方のチベットといわれていたのが第二京阪道路を使うと20~30分で大阪・京都の中心部に到達できます。ここ、大阪府枚方市茄子作地区20haの調整区域農地は格段の交通利便性の立地を獲得したのであります。

 

このまちづくり地区は3方を公道に囲まれているのでまず開発業者が目をつけます。調整区域農地でもコンビニや飲食店、病院のような沿道サービス業なら立地できるからです。そうなりますと、中央部の農地は入口を塞がれ、狭い農道しかないので、袋地状態となり、荒廃が進むことになります。利用価値の低い農地だけが取り残されてしまいます。

 

もっと重大な変化が、この10年間に起こっていました。先祖の営農の労苦を知っている私たち現役世代が80代となり、体力的に営農が困難になってきたのです。

 

ここで、稲作農業の経営実態を見てみましょう。1反300坪で約7俵のお米がとれます。販売額は10万円です。それに対し経費はどれくらいかかるかというと、苗と肥料の購入費。田植え機、耕運機、乾燥機、井戸の掘削、農小屋建設費等の償却費……試算によると、年間70万円の経費がかかります。労働費を0としても年間収支60万円の赤字です。

 

これでは後継者が営農の意欲を失くすのを責めるわけにはいかないでしょう。

 

仕方がない。休耕にするとどうなるか。田の土は肥えているので、梅雨が過ぎた頃には雑草の背丈は2mを越します。こうなると農業委員会の見廻りで苦情を言われるので刈り取りますが、体力がないので業者に外注すると、1反で10万円、年2回で20万円の草刈費用がかかります。美しい調整区域農業環境を維持するために、農家に大きな負担がかかってくるのです。

 

3.まちづくりは公共の福祉の増進

 

このような内外環境の変化を受けて、茄子作の農業者は令和3年、枚方市茄子作土地区画整理準備組合を立ち上げた次第であります。地権者は約120名、内20名は居住者、事業者です。

 

農業者としては営農上追い込まれた結果での組織立ち上げでありますが、私たちは何回かの勉強会を通じて、今回のまちづくりが土地区画整理法に基づくものであること、そしてその法の目的が「健全な市街地の造成を図り、もって公共の福祉の増進に資する」ことであることを学びました。

 

つまり、農地としてなら個人の管理責任ですが、120人の地権者がまとまって全20haの土地活用となると法の支配下のまちづくりとなり、その事業は公共性、公益性、公共の福祉の増進が目的となることを知ったのです。

 

私たちは先祖から引き継いだ大事な農地ですので、当初は自分の農地の減歩率にばかり目がいきましたが、多くの協議を重ねる中で、まちづくりの課題と目標について次のように取りまとめることができました。

 

結論として、今般、大阪府及び枚方市に提出された茄子作地区東部大阪都市計画、区域区分の変更、用途地域の変更等の都市計画案に賛成いたします。

 

4.人口減少の枚方市

 

以下にその理由を次の3点について具体的に申し述べます。

 

(1)大阪府及び枚方市における地域課題

当地区は標高30m、強固な地盤の台地上にあり、過去1500年間大きな災害の記録がない防災性に優れた地区であり、第二京阪道路ICに隣接したアクセス性にも優れた地区です。そのため、計画的なまちづくりをしなければ乱開発を誘発する恐れがあります。このような防災性やアクセス性を誇る本地区が乱開発されることは枚方市にとっても大きな損失です。

 

農地では後継者不足により営農を継続することができず、荒廃地における野生動物の発生や不法投棄問題など安全上、環境上の課題が生じてきます。

 

また枚方市は現在40万人の人口を抱える中核都市ですが、20年後には32万人に人口が減少する見込みです。これにより、生産年齢人口の減少による経済規模の縮少、企業の市外流出、財政危機、市民サービスの低下など様々な課題が深刻化します。

 

5.組合が目指すまちづくり

 

(2)準備組合は、土地区画整理手法を用いた計画的なまちづくりをもって、前述の地域課題の解決に寄与することを目指します。昨今の社会情勢において人口減少は全国的に避けられない中で、農地保全や住宅地整備は現実性がありません。そこで、ニーズの高い津波に無縁の大阪内陸部の大規模な産業用地を新たに計画することで次の5つの成果を期待しています。

 

①地元雇用の創出 ②関係人口の増加 ③地域経済の活性化 ④地域防災の向上 

⑤税収の増加 これは固定資産税だけで年間2億円増と試算されています。

 

また、本まちづくりの事業協力者である大和ハウス工業グループは、土地区画整理事業を通じてSDGsの目標達成に寄与することを大義としており、当地区が枚方南部を代表する企業団地であると同時に、大規模災害時、防災拠点となりうるコンパクトシティを目指しています。

 

6.工業地域に優良企業を

 

(3)工業地域を設定するメリット

枚方市が策定する都市計画マスタープランにおいては、第二京阪道路沿道は産業集積を目指す地区と位置付けており、本地区においても産業集積を中心としたまちづくりによる市街化を目指します。住宅、商業、工業といった土地利用が混在していると計画的な市街地が形成されません。そこで、これらの土地利用を区分するため“用途地域”を設定します。本まちづくり地区において、優良企業の誘致や雇用の創出等、地域貢献に繋がる土地活用を実現するためには工業地域を設定する必要があるのです。

 

現法令では例えば資生堂や武田薬品が扱う化粧品や薬などの日用品も危険物と位置づけられており、準工業地域では一定量以上は取り扱いができません。工業地域ではこれらを取り扱う中で、コンプライアンスを遵守し環境・防災等での地域貢献にも寄与できる優良企業を含め、幅広い企業が進出を目指せます。これにより、企業進出メリットの最大化を図り地域社会発展に寄与します。

 

7.倉庫やカップルホテルのまちにしない

 

ところで、昨年4月、市道山之上高田線を挟んで、西に隣接する交野市星田北地区20haのまちづくりが完成いたしました。ここは全域準工業地域で、ほぼ全区画が大型倉庫群であります。車は行き交っていますが、今の倉庫は全自動で人影はあまり見かけません。これでは雇用とまちの活性化は期待できないのです。それに準工業地域は住宅OK、パチンコOK、風俗OK、マージャン店OKで産業ゾーンにそぐいません。

 

準工業地域はなんでも建てられる地域であり、商業系や宿泊旅館などの企業も進出してくると、実質乱開発に近い土地利用となりかねません。そうなる懸念があるので、倉庫以外の優良企業は準工業地域に進出してこないのです。当初準工業地域の工業団地だったものが年を経て、工場が抜けるとそこにカップルホテル等が進出し、工業団地としての優位性が失われるのです。そういう企業団地に立地する多くの企業が工業地域への移転を希望しているということを、商工会議所の方から聞いています。

 

ちなみに手近の交野市星田北と枚方市大峰元町の準工業地域をのぞいてみてください。今申し上げたことは一目瞭然であります。

 

昨年12月の枚方市説明会では、工業地域に公害企業の進出を懸念する声がありましたが、SDGsへの貢献度で企業の優位性がはかられる時代に、公害を出す企業は企業として存続できません。公害どころか、店の前の街路樹を切ってしまった売上高5,000億円の大企業ビッグモーターが、顧客軽視で退場を余儀なくされているではありませんか。オーナーの利益だけを追求するような企業は、いくら高収益でもRespectされないだけでなく、この社会に存在できないのです。

 

8.枚方市の防災拠点モデルへ 

 

近年、地球温暖化によって今まで経験したことのない集中豪雨や能登半島地震のような巨大災害が多発しています。淀川水域の氾濫原に市の中心部をもつ枚方市にとって、巨大災害対策は喫緊の課題であります。

 

当茄子作地区は日本の国土軸に繋がる第二京阪道路IC隣に立地し、巨大災害時に物流面で機動的な展開が可能な枚方市唯一のまちづくり地区です。

 

また、先に述べましたように、多くの優良企業はSDGsの目標達成に寄与すること、社会貢献を企業理念としており、有事の際にその地に立地する企業が「避難所としての駐車場解放」「防災備蓄の提供」「太陽光発電による自家発電電力の提供」などで地域社会に貢献しようとしています。

 

能登半島地震の巨大な破壊と悲惨を目の当たりにし、南海トラフ地震が現実味を帯びる中で、当まちづくり地区が今後、地域と枚方市の防災拠点となりうるよう、進出企業、地域社会、行政が理念をもって進めていくことが望まれます。以上をもって私の公述といたします。ご清聴ありがとうございました。